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竹田簡易裁判所 昭和38年(ハ)56号 判決 1964年3月05日

原告 玉井恒夫

被告 国

訴訟代理人 樋口哲夫 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、原告の請求原因第一項から第四項まで、ならびに被告主張の(イ)(ハ)(ニ)(ヘ)(ト)は、いずれも当事者間に争がない。

二、よつて本件競売代金三万二、六六〇円から競売手続費用金七、一五五円を控除した残金二万五、五〇五円、鍋島高士の滞納税金等金四万七、四一五円を代納した後藤米登に対し共益費用に準じ交付されたものであることが明らかである。

三、調整法施行前、滞納処分による差押登記ある不動産に対する競売手続の開始や登記嘱託は換価の前提手続にすぎず滞納処分の手続をなんら阻害しないにもかかわらず、競売手続の開始は許されない旨の見解や登記嘱託も受理できない旨の行政解釈が行われていたため、低当権者が滞納税金を任意代納して差押を解除し競売申立に及ぶ事例も見られ、かかる滞納税金が代納されたばあいの競売代金交付に際し被告主張のごとく代納税金額を共益費用に準じ、この者に交付すべき旨の見解も存したことは、いずれも当裁判所に題著なところである。

四、もつとも、第三者が租税債務を履行しても国文は地方公共団体の債権に代位することはできず、滞納者と代納者との間で事務管理その他の民事上の請求により解決されるべきものであつて、これは低当権者が任意に第三者納付をしたときでも異るところはないように考えられ、もし競売代金交付に際し、低当権者が任意代納した滞納税金が他の債権者にも利益を及ぼす理由からすべて優先させると、税法上の租税優先権の制限規定と調和しなくなり、他方、租税優先権の制限にならい低当権に優先する税金部分の額にかぎり共益費用に準じ優先取扱をはかると、税金を全額完納しなければ差押解除を許さない税法の規定と調和しなくなる等、代納税金を共益費用に準ずる前記見解にも法令の解釈上疑義の存するところであつて、当裁判所は被告主張(ホ)のようには考えないけれども、かように解釈上争ある法律問題については、何人も全くこのような解釈をする余地がなく何人もかかる取扱をしなかつたであろうと考えられる明白な過誤あるごときは格別、そうでないかぎり、その結論がいずれであろうとも、事柄の性質上、国家賠償法第一条第一項にいう故意過失を認めることはできないと解するのを相当とする。

五、競売裁判所は競売法に基き競売代金から競売費用を控除した残金を遅滞なく受取るべき者に交付すべき職責を有するところ、本件代金交付は実務上もつとも慎重な取扱とされている手続にしたがい、強制競売に準じ配当表を作成し代金交付期日を定めて関係人を呼び出し該代金交付をしていること前記のとおりである。かようなばあい異議ある利害関係人はこれに対し不服を申し立て該手続の完結の阻止又は是正を求めることも許されるが、これをしないばあいでも、低当権実行による競売代金交付の性質上、もし代金交付をうけるべきでない者が交付をうけ、交付をうけるべき者がこれをうけなかつたときは、民法第七〇三条の定めるところにしたがい、当該関係人間で不当利得返還請求による通常の民事上の解決をはかることになるのであつて、配当表に対する異議訴訟等の提起を怠つたからといつて、その請求権には消長がないものと解する。

六、本件のように争ある法律問題を内蔵する代金交付に当り、競売裁判所がその所信にしたがい到達した結論により作成されたと認められる前記配当表による代金交付が利害関係人の見解と一致しなかつたとしても、その一事により当該裁判所の公務員の故意過失をたやすく是認しうべきものとは、とうてい考えられない。成立に争がない乙第四号証の記載によつても当該裁判所の公務員の故意過失は、とうてい認めることができないのは勿論、本件全証拠にてらしても競売裁判所の公務員に関し前記競売代金交付に際しその職務を行うについて故意過失を認めるべきなんらの資料も存在しない。

七、よつて国家賠償法に基く原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、民事訴訟法第八九条を適用したうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 青山達)

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